1on1の改善指摘は、伝え方で「対立」にも「対話」にも変わる
1on1で部下に改善点を伝えるとき、「どこまで言えばいいのか」「関係が悪くならないか」と迷うことはありませんか。
特に、遅刻、報告の遅れ、会議での発言不足、成果物の品質など、ネガティブな内容を扱う場面では、伝え方ひとつで相手の受け止め方が大きく変わります。
ただ厳しく言えば、相手は責められたと感じやすくなります。
一方で、気をつかいすぎて曖昧に伝えると、改善すべき点が伝わりません。
そこで役立つのが、SBIモデルです。
SBIモデルは、「状況」「行動」「影響」に分けてフィードバックを伝えるフレームワークです。感情や人格評価ではなく、具体的な事実と仕事への影響を整理して伝えられるため、1on1での改善指摘を対話に変えやすくなります。
この記事では、課長・PMが1on1で改善指摘を行うときに使えるSBIモデルの基本と、実際の言い方を具体例つきで解説します。
この記事でわかること
改善指摘は、相手を追い詰めるためのものではありません。
次の行動を一緒に変えていくための対話です。
まずは、なぜ1on1で改善指摘が難しくなりやすいのかを整理していきましょう。
1on1で改善指摘が難しい理由

1on1で改善指摘が難しいのは、単に「言い方がわからない」からではありません。
多くの場合、上司側には「相手を傷つけたくない」「関係が悪くなったら困る」「でも、言わなければ改善されない」という葛藤があります。
特に課長やPMの立場では、メンバーとの信頼関係を保ちながら、成果や行動の改善も求めなければなりません。だからこそ、改善指摘は単なる注意ではなく、慎重に設計すべきコミュニケーションになります。
指摘すると関係が悪くなる不安がある
改善指摘で最初に壁になるのは、「これを言ったら相手が落ち込むのではないか」「反発されるのではないか」という不安です。
たとえば、部下の報告が遅れてプロジェクトに影響が出ているとします。上司としては改善してほしい。けれど、言い方を間違えると、相手は「責められた」「信頼されていない」と受け取るかもしれません。
その結果、次のような対応になりがちです。
- 遠回しに伝えすぎて、改善点が伝わらない
- 雑談の中で軽く触れるだけで終わる
- 何度も我慢したあとに、強い言い方で伝えてしまう
- 「まあ今回はいいか」と先送りする
一見すると、関係を守っているように見えます。
しかし実際には、問題が放置され、あとでより大きな指摘が必要になることもあります。
改善指摘は、避けるほど楽になるものではありません。むしろ、早い段階で具体的に扱ったほうが、相手にとっても修正しやすくなります。
感情や評価が混ざると、相手は防御的になりやすい
改善指摘がこじれやすい大きな原因は、事実ではなく評価や解釈を中心に伝えてしまうことです。
たとえば、次のような言い方です。
- 「最近、責任感が足りないよ」
- 「もっと主体性を持ってほしい」
- 「報連相ができていない」
- 「会議への意識が低いんじゃない?」
これらは、上司として感じていることとしては自然かもしれません。
しかし、言われた側からすると、自分の性格や姿勢を否定されたように聞こえやすい表現です。
特に「責任感がない」「主体性がない」といった言葉は、相手の内面を決めつけるニュアンスがあります。本人としては、「そんなつもりはない」「事情を知らないのに決めつけないでほしい」と感じる可能性があります。
ここで重要なのは、改善指摘では「相手がどんな人か」ではなく、「どの場面で、どんな行動があり、それによって何が起きたのか」を扱うことです。
たとえば、
「責任感が足りない」ではなく、
「昨日の進捗会議で、担当タスクの遅れが共有されなかったため、他メンバーの作業調整が当日になりました」
と伝えたほうが、相手は具体的に振り返りやすくなります。
指摘の目的は責めることではなく、次の行動を変えること
改善指摘の目的は、過去のミスを責めることではありません。
本来の目的は、次回以降の行動をよりよくすることです。
ここを見失うと、1on1は「反省させる場」になってしまいます。
しかし、上司が本当に目指すべきなのは、相手に罪悪感を持たせることではなく、次に何を変えればよいかを一緒に明確にすることです。
そのためには、次の3点を意識する必要があります。
- 何が問題だったのかを具体的にする
- その行動が仕事や周囲に与えた影響を共有する
- 次回からどう変えるかを対話で決める
たとえば、報告の遅れを指摘する場合でも、「ちゃんと報告して」だけでは不十分です。
何を、いつまでに、どの粒度で報告してほしいのかが明確でなければ、相手は次にどう行動すればよいかわかりません。
改善指摘は、相手を追い詰めるための言葉ではなく、行動を修正するための情報提供です。
この前提を持てると、上司側も必要以上に遠慮せず、相手も受け取りやすい形で話し合えるようになります。
そのための具体的な型として役立つのが、次に解説するSBIモデルです。
SBIモデルとは?改善指摘を整理する基本の型
SBIモデルとは、フィードバックを「状況」「行動」「影響」の3つに分けて伝えるフレームワークです。
改善指摘が難しくなる原因の多くは、伝え方が抽象的になったり、相手の人格や姿勢への評価に見えたりすることです。
SBIモデルを使うと、「何について話しているのか」「どの行動を改善してほしいのか」「なぜ改善が必要なのか」を整理して伝えやすくなります。
1on1でネガティブな内容を扱うときほど、勢いや感情で話すのではなく、相手が受け取りやすい形に分解して伝えることが重要です。
SBIモデルは「状況・行動・影響」で伝えるフレームワーク
SBIモデルのSBIは、次の3つの要素を指します。
- S:Situation|状況
- B:Behavior|行動
- I:Impact|影響
それぞれを簡単に言うと、次のようになります。
Situationは、「いつ・どこで・どの場面で起きたことか」です。
たとえば、「昨日の定例会議で」「先週金曜日の顧客報告の場で」「今朝の進捗共有で」といった具体的な場面を示します。
Behaviorは、「その場面で相手が実際にした行動」です。
ここでは、上司の解釈ではなく、観察できる行動を扱います。
「やる気がなさそうだった」ではなく、「会議中に発言がなかった」「資料の修正点が反映されていなかった」のように伝えます。
Impactは、「その行動によって起きた影響」です。
チーム、顧客、プロジェクト、上司自身、本人の評価や成長にどのような影響があったのかを伝えます。
たとえば、報告の遅れを指摘する場合は、次のように整理できます。
- Situation:昨日の夕方、A案件の進捗確認をしたとき
- Behavior:遅延しているタスクについて、事前の共有がありませんでした
- Impact:対応の優先順位を組み替える判断が遅れ、他メンバーへの調整が当日になりました
このように分けると、指摘の焦点が「あなたは報告ができない人だ」ではなく、「この場面で、この行動があり、この影響が出た」という具体的な話になります。
これが、SBIモデルの大きな効果です。

SBIモデルを使うと、指摘が感情論になりにくい
改善指摘では、上司側にも感情があります。
「なぜ早く言ってくれなかったのか」
「また同じことが起きた」
「もう少し責任を持ってほしい」
このように感じること自体は自然です。
しかし、その感情をそのまま言葉にすると、相手は内容よりも「責められた」という印象を強く受けやすくなります。
たとえば、次のような伝え方は注意が必要です。
「前から言っているけど、報告が遅いよね。もっと責任感を持って動いてほしい」
言いたいことは理解できます。
ただし、この言い方では「前から」「責任感」という言葉が強く、相手は防御的になりやすいです。
SBIモデルで整理すると、次のように変えられます。
「昨日のA案件の進捗確認時点で、遅延しているタスクの共有がありませんでした。そのため、今日の朝になってから他メンバーの作業予定を変更する必要が出ました。次回から、遅れが見えた段階で早めに共有できるようにしたいのですが、どのタイミングなら共有しやすそうですか」
この伝え方では、相手の性格や姿勢を決めつけていません。
話しているのは、具体的な場面、行動、影響です。
もちろん、言い方を整理したからといって、相手が必ずすぐ納得するわけではありません。
しかし、少なくとも「何を問題として話しているのか」は明確になります。
改善指摘で重要なのは、上司の不満をぶつけることではありません。
相手が行動を振り返り、次に変えられる状態をつくることです。
1on1では「評価」よりも「具体的な行動」に焦点を当てる
1on1の改善指摘で最も避けたいのは、相手に「自分そのものを否定された」と感じさせることです。
そのためには、評価ではなく行動に焦点を当てる必要があります。
たとえば、次のような表現は評価に近い言い方です。
- 「主体性がない」
- 「責任感が足りない」
- 「危機感がない」
- 「仕事が雑」
- 「コミュニケーションが弱い」
これらの言葉は、上司側としては便利です。
短い言葉で問題をまとめられるからです。
しかし、部下側から見ると、何をどう直せばよいのかがわかりにくい言葉でもあります。
「主体性がない」と言われても、具体的に何を変えればよいのかは人によって解釈が分かれます。
「仕事が雑」と言われても、資料の確認不足なのか、期限管理なのか、報告の粒度なのかが曖昧です。
だからこそ、1on1では評価語をそのまま使うのではなく、行動に変換して伝えることが大切です。
たとえば、次のように言い換えられます。
- 「主体性がない」
→「会議で論点が出たときに、自分の担当範囲からの意見共有がありませんでした」 - 「責任感が足りない」
→「期限に間に合わない可能性が見えた時点で、事前の相談がありませんでした」 - 「仕事が雑」
→「提出前の資料に、前回指摘した数値の修正漏れが3か所ありました」 - 「コミュニケーションが弱い」
→「仕様変更が決まったあと、関係メンバーへの共有が翌日になっていました」
このように具体的な行動に落とすと、相手は「何を直せばよいのか」を理解しやすくなります。
改善指摘では、相手を評価する言葉よりも、相手が修正できる行動を伝えることが重要です。
SBIモデルは、そのための整理方法として使えます。
SBIモデルを使った改善指摘の基本ステップ
SBIモデルは、知っているだけでは効果が出ません。
実際の1on1で使うには、「どの順番で話すか」まで整理しておくことが重要です。
改善指摘の場面では、いきなり結論から入ると、相手は身構えやすくなります。
反対に、前置きが長すぎると、何を伝えたいのかがぼやけます。
そこで、次の4ステップで話すと、改善指摘を対話にしやすくなります。
- STEP1:Situation|いつ・どの場面で起きたことかを伝える
- STEP2:Behavior|見えた行動だけを伝える
- STEP3:Impact|その行動が周囲や仕事に与えた影響を伝える
- STEP4:対話につなげる問いを加える
ポイントは、最後に必ず「問い」を入れることです。
SBIモデルは、上司が一方的に指摘するための型ではありません。相手が状況を振り返り、次の行動を一緒に考えるための型です。
STEP1:Situation|いつ・どの場面で起きたことかを伝える
最初に伝えるべきなのは、「どの場面について話しているのか」です。
改善指摘では、上司側は具体的な出来事を思い浮かべています。
しかし、相手も同じ場面を思い出せているとは限りません。
たとえば、次のような言い方では曖昧です。
- 「最近、報告が遅いよね」
- 「この前の会議だけど」
- 「前から気になっていたんだけど」
- 「いつも共有が足りないよね」
これでは、相手はどの出来事について話されているのか判断しにくくなります。
場合によっては、「いつの話ですか?」「自分ではそんなつもりはありません」と受け取られる可能性もあります。
Situationでは、できるだけ具体的に場面を示します。
たとえば、次のような形です。
- 「昨日の15時に行ったA案件の進捗確認で」
- 「先週金曜日の顧客向けレビュー会議で」
- 「今朝のチーム定例で、Bタスクの状況を確認したとき」
- 「先月末に提出された月次レポートの確認時に」
このように場面を特定すると、相手は「何の話をされているのか」を理解しやすくなります。
改善指摘の入口で大切なのは、相手を納得させることではありません。
まず、同じ場面を一緒に見られる状態をつくることです。
STEP2:Behavior|見えた行動だけを伝える
次に、相手の行動を伝えます。
ここで重要なのは、上司の解釈や評価ではなく、実際に見えた行動を扱うことです。
改善指摘がこじれる原因の多くは、このBehaviorに評価や決めつけが混ざることにあります。
たとえば、次の表現はBehaviorのように見えて、実際には評価や解釈が含まれています。
- 「やる気がなさそうだった」
- 「準備不足だった」
- 「責任感が足りなかった」
- 「真剣に聞いていなかった」
- 「雑に対応していた」
これらは、上司から見た印象です。
相手からすると、「そういうつもりではない」「事情を知らずに決めつけられた」と感じやすくなります。
Behaviorでは、できるだけ観察可能な行動に変換します。
たとえば、次のように言い換えます。
- 「やる気がなさそうだった」
→「会議中、こちらから確認するまで発言がありませんでした」 - 「準備不足だった」
→「事前に依頼していた数値データが資料に入っていませんでした」 - 「責任感が足りなかった」
→「期限に間に合わない可能性について、事前の相談がありませんでした」 - 「真剣に聞いていなかった」
→「説明中に別資料を見ていて、確認事項への返答が止まりました」 - 「雑に対応していた」
→「提出資料に、前回指摘した修正漏れが複数残っていました」
このように伝えると、話題が「あなたはどういう人か」ではなく、「この行動をどう改善するか」に移ります。
1on1の改善指摘では、人格に触れず、行動に絞ることが基本です。
行動であれば、相手も変えられます。
STEP3:Impact|その行動が周囲や仕事に与えた影響を伝える
行動を伝えたあとは、その行動によってどのような影響が出たのかを共有します。
Impactがない指摘は、相手にとって「なぜそれを直す必要があるのか」が見えにくくなります。
たとえば、上司が「報告を早くしてほしい」と伝えたとします。
しかし、相手がその重要性を理解していなければ、「忙しいときは後回しでもよい」と考えるかもしれません。
そこで、行動が仕事にどう影響したのかを具体的に伝えます。
- 「他メンバーの作業調整が当日になりました」
- 「顧客への回答期限を再設定する必要が出ました」
- 「レビューのやり直しが発生し、全体の進行が半日遅れました」
- 「会議内で判断に必要な情報がそろわず、結論を次回に持ち越しました」
- 「チーム内で同じ確認が重複し、作業時間が増えました」
ここで注意したいのは、Impactを「上司の不満」だけにしないことです。
たとえば、次のような言い方です。
- 「こちらが困るんだよね」
- 「私の負担が増えるんだよ」
- 「毎回フォローするのは大変なんだよ」
もちろん、上司自身に負担がかかっている場合、それを伝えること自体は間違いではありません。
ただ、それだけだと「上司が不機嫌だから怒られている」と受け取られる可能性があります。
Impactでは、仕事・チーム・顧客・本人の成長にどう影響したのかまで整理すると、相手も必要性を理解しやすくなります。
たとえば、次のように伝えます。
「昨日の進捗確認で、遅延しているタスクの共有がありませんでした。そのため、他メンバーの作業予定を当日中に変更する必要が出ました。早めに共有できると、チーム全体で調整しやすくなります」
このように、影響を具体的に伝えることで、改善の必要性が感情論ではなく仕事の文脈で伝わります。
STEP4:対話につなげる問いを加える
SBIモデルで状況・行動・影響を伝えたあと、最後に必ず問いを加えます。
ここが、改善指摘を「一方的な注意」で終わらせないための重要なポイントです。
たとえば、次のような問いです。
- 「この場面について、どう受け止めていますか?」
- 「何か背景や事情はありましたか?」
- 「次回から、どのタイミングで共有できそうですか?」
- 「同じことを防ぐために、何を変えられそうですか?」
- 「こちらから支援できることはありますか?」
問いを入れることで、相手は自分の認識や事情を話しやすくなります。
上司から見えている情報が、必ずしもすべてではありません。
相手には相手の事情があるかもしれません。
たとえば、報告が遅れた背景には、単なる怠慢ではなく、次のような事情がある可能性もあります。
- 判断に必要な情報がまだ集まっていなかった
- 誰に相談すればよいか迷っていた
- 問題があることは認識していたが、優先順位を誤っていた
- 他案件の緊急対応に追われていた
- そもそも報告すべき基準を理解できていなかった
もちろん、事情があるからといって改善不要になるわけではありません。
ただし、背景を確認しないまま指摘だけをすると、解決策がずれることがあります。
たとえば、上司が「もっと早く報告して」と伝えても、本人が「どの程度の遅れから報告すべきか」を理解していなければ、同じ問題は繰り返されます。
その場合は、単に注意するよりも、次のように合意するほうが実務的です。
「今後は、予定より半日以上遅れそうな時点で、いったんチャットで共有しましょう。詳細が固まっていなくても、遅れの可能性だけ先に知らせてもらえると助かります」
このように、問いを通じて背景を確認し、次の行動まで合意することで、改善指摘は対話になります。
SBIモデルは、きれいに話すための型ではありません。
相手が受け止めやすく、次の行動に移しやすくするための型です。
改善指摘を対話に変える言い方の例
SBIモデルは、実際の言い方に落とし込んでこそ使いやすくなります。
ここでは、1on1でよく扱われる4つの場面を例に、改善指摘の言い換え方を紹介します。
ポイントは、相手を責める言い方ではなく、次の3点を明確にすることです。
- どの場面の話か
- どの行動について話しているか
- その行動によって、どんな影響が出たか
そのうえで、最後に相手の認識や次の行動を確認する問いを加えます。
これにより、改善指摘が「注意」ではなく「対話」になります。
例1:会議への遅刻を指摘する場合
会議への遅刻は、指摘しやすいようで意外と伝え方が難しいテーマです。
「時間を守ってください」とだけ伝えると、正論ではありますが、相手によっては責められた印象だけが残ることがあります。
一方で、軽く流しすぎると、「多少遅れても問題ない」と受け取られる可能性もあります。
よくない言い方の例は、次のようなものです。
最近、会議に遅れることが多いよね。
社会人として時間は守ってほしいです。
この言い方では、「社会人として」という評価が強く出ています。
相手は行動を振り返るよりも、「責められた」「常識がないと言われた」と感じやすくなります。
SBIモデルで伝えるなら、次のように整理できます。
昨日のプロジェクト定例で、会議開始から10分後に入室しました。
その間に、A案件の優先順位について確認を進めていたため、入室後にもう一度説明する時間が必要になりました。
次回から開始時間に間に合うようにするには、何か調整できそうなことはありますか?
この言い方では、相手の人格や常識を責めていません。
扱っているのは、「昨日の定例」「10分後に入室した」「説明のやり直しが発生した」という具体的な事実と影響です。
さらに、最後に問いを入れることで、遅刻の背景を確認できます。
たとえば、前の会議が長引いているのかもしれません。
業務量が集中していて、移動や準備の時間を確保できていないのかもしれません。
あるいは、本人の時間管理に課題があるのかもしれません。
原因によって、打ち手は変わります。
- 前の会議が長引くなら、定例の開始時間を調整する
- 準備時間が足りないなら、会議前に5分のバッファを入れる
- 時間管理の問題なら、開始5分前に通知を設定する
改善指摘では、遅れたことを責めるよりも、次に遅れない仕組みを一緒に考えることが重要です。
例2:報告が遅い部下に伝える場合
報告の遅れは、プロジェクト全体に影響しやすい問題です。
特に課長やPMの立場では、報告が遅れると判断も遅れます。
すると、メンバーの作業調整、顧客対応、リスク管理にも影響が出ます。
ただし、「報連相ができていない」と伝えるだけでは、改善につながりにくいです。
たとえば、次のような言い方です。
報告が遅いです。
もっと早く相談してください。
こちらから聞かないと出てこないのは困ります。
これも言いたいこと自体は自然です。
しかし、相手からすると「どの報告のことか」「どのタイミングで報告すればよかったのか」がわかりにくい可能性があります。
SBIモデルで伝えるなら、次のようになります。
昨日の夕方、B案件の進捗を確認したときに、予定より1日遅れていることがわかりました。
ただ、その遅れについて事前の共有がありませんでした。
そのため、今日予定していたレビュー担当の作業を急きょ組み替える必要が出ました。
次回から、遅れが見えた時点で早めに共有できるようにしたいのですが、どのタイミングなら報告しやすそうですか?
この言い方では、「報連相ができていない」という抽象的な指摘を、具体的な行動に変換しています。
重要なのは、「遅れたこと」そのものだけではありません。
遅れが見えた時点で共有されなかったことにより、周囲の判断や調整が遅れた点です。
報告の遅れを改善するには、報告ルールを具体化することも有効です。
たとえば、1on1の中で次のように合意できます。
今後は、予定より半日以上遅れそうな時点で、確定情報でなくても一度共有してください。
「遅れる可能性があります」の段階で構いません。
このように、報告の基準を明確にすると、部下も動きやすくなります。
「早めに報告して」だけでは、人によって解釈が分かれます。
「どの状態になったら、どの手段で、誰に共有するか」まで決めることで、改善指摘が実務につながります。
例3:会議で発言が少ないメンバーに伝える場合
会議での発言が少ないメンバーに対しては、特に言い方に注意が必要です。
発言が少ない理由は、人によって異なります。
- 事前準備が足りていない
- 自信がなくて発言を控えている
- 会議の目的を理解できていない
- 自分の役割だと思っていない
- 他の参加者に遠慮している
- 発言しなくても問題ないと思っている
この背景を確認しないまま、「もっと積極的に話して」と言うと、相手はプレッシャーだけを感じることがあります。
よくない言い方の例は、次のようなものです。
会議で全然発言しないよね。
もっと主体的に参加してください。
この言い方では、「主体的ではない」という評価が含まれています。
相手は「自分なりに聞いていたのに」「急にそう言われても」と感じるかもしれません。
SBIモデルで伝えるなら、次のようにできます。
今日の仕様確認会議で、担当しているC機能について意見を求められた場面がありました。
そのとき、こちらから確認するまで発言がありませんでした。
C機能はあなたが一番詳しい領域なので、そこで意見が出ないと、チームとして判断材料が足りなくなります。
次回から、担当範囲については一言でも見解を出してもらいたいのですが、発言しづらかった理由はありますか?
この伝え方では、「発言しない人」と決めつけていません。
あくまで、特定の場面で、担当領域に関する発言がなかったことを扱っています。
また、「なぜ発言してほしいのか」も明確です。
単に上司が積極性を求めているのではなく、チームの判断材料として必要だからです。
改善につなげるなら、次のように小さな行動に落とし込むと効果的です。
- 会議前に、担当範囲の論点を1つ準備してもらう
- 発言が難しい場合は、チャットで補足してもらう
- いきなり大きな提案ではなく、「懸念点」だけ共有してもらう
- 会議中に上司から意見を振るタイミングを事前に伝える
会議での発言不足は、本人の性格だけの問題とは限りません。
「何を期待されているか」が曖昧なために、発言しないケースもあります。
だからこそ、1on1では「もっと話して」ではなく、「どの場面で、どんな発言を期待しているか」まで具体化することが大切です。
例4:成果物の品質に課題がある場合
成果物の品質に関する指摘は、相手の能力評価に聞こえやすいテーマです。
資料のミス、確認漏れ、設計の粗さ、レビュー観点の不足などを伝えるとき、言い方を間違えると「仕事ができないと言われた」と受け取られることがあります。
たとえば、次のような言い方は避けたいところです。
今回の資料、ちょっと雑でした。
もっとちゃんと確認してから出してください。
この言い方では、どこが問題だったのかが曖昧です。
「雑」「ちゃんと」という言葉は便利ですが、具体性がありません。
SBIモデルで伝えるなら、次のようにします。
昨日提出された月次報告資料を確認したとき、前回レビューで指摘した数値の修正漏れが3か所ありました。
そのため、再確認と差し戻しが必要になり、今日の上長報告に向けた準備時間が短くなりました。
次回から、提出前にレビュー指摘の反映チェックを入れたいのですが、どのような確認手順なら実行しやすそうですか?
この伝え方では、「仕事が雑」という評価ではなく、「修正漏れが3か所あった」という具体的な行動・結果を扱っています。
成果物の品質を改善するには、「気をつけてください」だけでは不十分です。
品質の問題は、本人の注意力だけでなく、確認手順やレビュー観点の不足によって起きることも多いからです。
1on1では、次のような形で改善策に落とし込めます。
- 提出前チェックリストを作る
- 前回指摘事項を別欄で管理する
- 重要資料だけは提出前にセルフレビュー時間を確保する
- 数値、日付、固有名詞だけを重点確認する
- レビュー反映後に、変更箇所をコメントで残す
品質への指摘は、言い方が抽象的だと相手を萎縮させます。
しかし、具体的な行動と確認手順に分けると、改善しやすくなります。
大切なのは、「能力が低い」と感じさせることではありません。
次回の成果物をよくするために、どの行動を変えればよいかを明確にすることです。
SBIモデルを使うときのよくある失敗
SBIモデルは、改善指摘を整理するうえで便利な型です。
ただし、形式だけをまねても、伝え方を間違えると相手の反発や誤解につながります。
特に注意したいのは、「SBIで話しているつもりでも、実際には評価や不満が混ざっている」ケースです。
SBIモデルを1on1で活用するには、次のような失敗を避ける必要があります。
失敗1:Situationが曖昧で、相手が思い出せない
1つ目の失敗は、Situation、つまり状況の説明が曖昧なまま話し始めてしまうことです。
たとえば、次のような言い方です。
最近、報告が遅いことがあるよね。
この前の会議でも少し気になりました。
この言い方では、相手がどの場面を振り返ればよいのかわかりません。
「最近」と言われても、昨日の話なのか、先週の話なのか、特定の案件の話なのかが曖昧です。
「この前の会議」と言われても、複数の会議があれば、相手は別の場面を思い浮かべるかもしれません。
Situationが曖昧だと、相手は指摘内容そのものよりも、まず「何の話をされているのか」を探す状態になります。
その結果、改善の対話に入る前に認識のズレが生まれます。
改善するなら、次のように場面を特定します。
先週金曜日の16時に行ったA案件の進捗確認で、Bタスクの遅れについて話した場面です。
このように伝えると、相手は同じ出来事を思い出しやすくなります。
改善指摘では、最初に「同じ場面を一緒に見る」ことが大切です。
ここがずれると、その後にどれだけ丁寧に話しても、相手の納得感は下がってしまいます。
失敗2:Behaviorの中に評価や決めつけが混ざる
2つ目の失敗は、Behavior、つまり行動の説明に評価や決めつけが混ざることです。
SBIモデルで最も難しいのが、このBehaviorです。
なぜなら、上司は目の前の行動だけでなく、その背景にある姿勢や能力まで推測してしまいやすいからです。
たとえば、次のような言い方です。
会議中、あまり主体性が感じられませんでした。
もう少し責任感を持って参加してほしいです。
これは一見、会議中の行動を指摘しているように見えます。
しかし実際には、「主体性がない」「責任感が足りない」という評価が中心になっています。
言われた側は、次のように感じる可能性があります。
- 「自分なりに考えていたのに」
- 「発言しなかっただけで、主体性がないと決めつけられた」
- 「責任感がないと言われるのは納得できない」
このように、評価語は相手の防御反応を引き出しやすくなります。
改善するなら、観察できる行動に変換します。
今日の仕様確認会議で、C機能について意見を求められた場面がありました。
そのとき、こちらから確認するまで発言がありませんでした。
この言い方であれば、「主体性がない」という評価ではなく、「求められた場面で発言がなかった」という行動に焦点が当たります。
Behaviorでは、相手の内面を言い当てようとしないことが重要です。
扱うべきなのは、見えた行動、聞こえた発言、確認できる事実です。
失敗3:Impactが上司の不満だけになっている
3つ目の失敗は、Impact、つまり影響の説明が上司の不満だけになってしまうことです。
たとえば、次のような言い方です。
こちらも毎回確認するのは大変です。
正直、かなり困っています。
上司の負担を伝えること自体が悪いわけではありません。
実際に、確認やフォローの負担が増えているなら、それも影響のひとつです。
ただし、Impactが上司の不満だけになると、相手は「上司を困らせたから怒られている」と受け取りやすくなります。
改善指摘で伝えるべきImpactは、もう少し仕事の文脈に広げる必要があります。
たとえば、次のように整理できます。
- チームの作業調整が遅れた
- 顧客への回答が後ろ倒しになった
- レビューのやり直しが発生した
- 判断に必要な情報がそろわなかった
- 他メンバーの作業時間が圧迫された
- 本人の評価や成長機会にも影響する可能性がある
たとえば、報告の遅れを指摘するなら、次のように伝えます。
遅れの共有が当日になったことで、レビュー担当の作業予定を急きょ変更する必要が出ました。
結果として、他メンバーの作業時間にも影響が出ています。
この言い方であれば、「上司が不満に思っているから」ではなく、「仕事全体に影響が出ているから改善が必要」という文脈になります。
Impactは、相手を責めるために使うものではありません。
なぜその行動を変える必要があるのかを、相手が理解できるようにするための情報です。
失敗4:最後が説教で終わってしまう
4つ目の失敗は、SBIで整理して伝えたあと、最後が説教で終わってしまうことです。
たとえば、次のような流れです。
昨日の会議で、開始から10分遅れて入室しました。
その間に重要な論点を話していたので、もう一度説明する必要が出ました。
だから、今後はもっと社会人としての自覚を持ってください。
前半はSBIに近い形で整理されています。
しかし最後に「社会人としての自覚」という大きな評価語が入ることで、相手の印象は一気に変わります。
せっかく具体的に伝えていても、最後が説教になると、相手には「結局、責められた」という感覚が残ります。
改善するなら、最後は問いや合意形成につなげます。
次回から開始時間に間に合うようにするには、何を調整できそうですか?
もし前の予定との兼ね合いがあるなら、事前に共有してもらえれば調整できます。
このように締めると、相手は反省を求められるだけでなく、次の行動を考える状態になります。
1on1での改善指摘は、上司が正論を言い切る場ではありません。
相手の行動が変わるように、認識をそろえ、次の一歩を決める場です。
SBIモデルを使うときは、最後に次のような問いを置くと対話になりやすくなります。
- 「この点について、どう受け止めていますか?」
- 「何か背景はありましたか?」
- 「次回から、どのように進められそうですか?」
- 「同じことを防ぐために、何を変えられそうですか?」
- 「こちらから支援できることはありますか?」
改善指摘は、伝えた瞬間に完了するものではありません。
相手が理解し、納得し、次の行動に移せる状態になって、初めて意味があります。
そのためにも、SBIモデルは「言い切る型」ではなく、「対話を始める型」として使うことが大切です。
1on1で改善指摘を伝える前に準備すべきこと

改善指摘は、1on1の場で思いついたまま話すと失敗しやすくなります。
なぜなら、ネガティブな内容を扱う場面では、上司側にも少なからず感情が入るからです。
「なぜ事前に相談してくれなかったのか」「また同じミスが起きている」「こちらの負担が増えている」と感じたまま話すと、言葉が強くなったり、指摘の焦点がぼやけたりします。
SBIモデルを効果的に使うには、1on1の前に少しだけ準備しておくことが大切です。
準備といっても、長い資料を作る必要はありません。
「何を伝えるのか」「なぜ伝えるのか」「どう対話につなげるのか」を整理しておくだけで、指摘の質は大きく変わります。
伝える目的を明確にする
まず整理すべきなのは、改善指摘の目的です。
1on1でネガティブな内容を伝えるとき、目的が曖昧なままだと、話が感情的になりやすくなります。
たとえば、部下の報告が遅かった場面を思い出してみてください。
上司としては「困った」「もっと早く言ってほしかった」と感じるかもしれません。
しかし、その感情をそのままぶつけると、次のような伝え方になりがちです。
いつも報告が遅いです。
こちらから聞く前に、ちゃんと共有してください。
この言い方では、上司の不満は伝わります。
ただし、相手が次にどう行動すればよいかは、まだ明確ではありません。
改善指摘の前には、次の問いを自分に投げかけておくと効果的です。
- この指摘で、相手に何を理解してほしいのか
- 次回から、どの行動を変えてほしいのか
- その行動が変わると、仕事上どんなよい影響があるのか
- この場で合意したいことは何か
たとえば、報告の遅れであれば、目的は「反省させること」ではありません。
本来の目的は、「遅れが見えた段階で早めに共有してもらい、チーム全体で調整できる状態をつくること」です。
この目的が明確になると、伝え方も変わります。
今回の件は、責めたいわけではありません。
遅れが見えた段階で早めに共有できるようにして、チーム全体で調整しやすくしたいと考えています。
このように目的を共有すると、相手も「怒られている」のではなく、「次の進め方を話している」と受け取りやすくなります。
改善指摘では、最初に自分の目的を整えることが大切です。
目的が「不満を伝えること」になっていると、対話にはなりません。
目的を「次の行動を変えること」に置くと、言葉の選び方も自然に変わります。
事実と解釈を分けてメモしておく
次に準備したいのが、事実と解釈の切り分けです。
改善指摘では、上司が見た事実と、そこから感じた解釈が混ざりやすくなります。
たとえば、次のようなケースです。
- 事実:会議で発言がなかった
- 解釈:主体性がないのではないか
- 事実:資料に修正漏れがあった
- 解釈:確認が雑なのではないか
- 事実:遅延の共有がなかった
- 解釈:責任感が足りないのではないか
上司の解釈が必ず間違っているわけではありません。
ただし、解釈をそのまま伝えると、相手は防御的になりやすくなります。
だからこそ、1on1の前に次の3つに分けてメモしておくと効果的です。
- 事実:実際に起きたこと、見えた行動
- 解釈:自分がそこから感じたこと、推測したこと
- 影響:仕事、チーム、顧客、本人に起きた影響
たとえば、成果物の品質に課題があった場合は、次のように整理できます。
- 事実:月次報告資料に、前回指摘した数値の修正漏れが3か所あった
- 解釈:提出前の確認手順が不足しているかもしれない
- 影響:再確認と差し戻しが発生し、上長報告前の準備時間が短くなった
このように分けると、1on1で伝えるべき内容が明確になります。
実際に話すときは、まず事実と影響を中心に伝えます。
解釈については、決めつけではなく確認として扱います。
たとえば、次のように伝えます。
昨日提出された月次報告資料で、前回指摘した数値の修正漏れが3か所ありました。
そのため、再確認と差し戻しが必要になり、上長報告前の準備時間が短くなりました。
提出前の確認手順で、何かやりにくい点はありましたか?
この言い方であれば、「確認が雑だ」と決めつけていません。
事実と影響を伝えたうえで、背景を確認しています。
改善指摘の準備では、「自分がどう感じたか」よりも、「相手に具体的に何を振り返ってもらうか」を整理することが重要です。
最初から正解を押しつけない
改善指摘の準備で、もうひとつ大切なのが「正解を決めつけすぎないこと」です。
上司は経験がある分、「こうすればいいのに」と感じることがあります。
もちろん、明確なルール違反や重大なリスクがある場合は、上司が方針を示す必要があります。
ただ、多くの1on1では、上司が見えている情報だけで判断すると、原因を取り違えることがあります。
たとえば、部下の報告が遅い場合、上司は「意識が低い」「優先順位を間違えている」と感じるかもしれません。
しかし実際には、次のような背景がある可能性もあります。
- 報告すべきタイミングの基準がわかっていない
- 悪い報告をすることに心理的な抵抗がある
- 先に自分で解決してから報告すべきだと思っている
- 複数案件を抱えていて、優先順位が混乱している
- 上司が忙しそうで、相談を後回しにしている
このような背景を確認しないまま、「次から早く報告して」とだけ伝えても、根本的な改善につながらない場合があります。
そのため、1on1では最初から正解を押しつけるのではなく、相手の認識を確認する余白を残します。
たとえば、次のような問いを準備しておくと便利です。
- 「この件について、本人としてはどう見ていますか?」
- 「報告が遅れた背景には、何がありましたか?」
- 「どの時点で共有すべきか、迷いはありましたか?」
- 「次回から変えるとしたら、何が現実的ですか?」
- 「こちらから支援できることはありますか?」
問いを準備しておくと、1on1が説教ではなく対話になります。
ただし、相手に丸投げする必要はありません。
上司として譲れない基準がある場合は、明確に伝えることも大切です。
たとえば、次のように伝えます。
背景は確認したいです。
そのうえで、遅れが見えた段階で早めに共有することは、今後のチーム運営上必要だと考えています。
どのタイミングなら無理なく共有できるか、一緒に決めたいです。
このように伝えると、必要な基準は曖昧にせず、進め方は相手と一緒に考える形になります。
改善指摘では、上司がすべての答えを持っている必要はありません。
大切なのは、相手が行動を変えられるように、事実を共有し、背景を確認し、次の行動を合意することです。
1on1の前にここまで準備しておくと、ネガティブな内容でも、関係を壊さずに扱いやすくなります。
関係を壊さないための1on1フィードバックのコツ
1on1で改善指摘をするときに大切なのは、「やわらかく言うこと」だけではありません。
もちろん、強い言い方や感情的な表現は避けるべきです。
しかし、相手に配慮しすぎて内容が曖昧になると、何を改善すればよいのかが伝わらなくなります。
関係を壊さないフィードバックとは、指摘を弱めることではありません。
相手が受け止めやすい形で、必要なことを具体的に伝えることです。
人格ではなく行動に焦点を当てる
改善指摘で最も避けたいのは、相手の人格や性格を評価する言い方です。
たとえば、次のような表現です。
- 「責任感が足りない」
- 「主体性がない」
- 「詰めが甘い」
- 「仕事が雑」
- 「危機感がない」
これらの言葉は、上司側としては問題点を短く表現できるため、つい使いたくなります。
しかし、言われた側は「自分そのものを否定された」と感じやすくなります。
改善指摘で扱うべきなのは、相手の人格ではなく、具体的な行動です。
たとえば、次のように変えます。
「責任感が足りない」
→「期限に間に合わない可能性が見えた時点で、事前の相談がありませんでした」
「仕事が雑」
→「提出前の資料に、前回指摘した修正漏れが残っていました」
「主体性がない」
→「担当領域について意見を求められた場面で、発言がありませんでした」
行動に焦点を当てると、相手は改善しやすくなります。
なぜなら、人格を変えることは難しくても、行動は変えられるからです。
「あなたはこういう人だ」と言われると、人は防御的になりやすくなります。
一方で、「この場面で、この行動について話したい」と言われれば、具体的に振り返る余地が生まれます。
1on1では、相手を評価するよりも、相手が次に変えられる行動を一緒に見つけることが重要です。
最初に目的を共有する
ネガティブな内容を伝えるときは、最初に目的を共有すると、相手の受け止め方が変わります。
いきなり指摘から入ると、相手は身構えます。
「怒られるのではないか」「評価を下げられるのではないか」と感じると、話の内容よりも自分を守ることに意識が向きやすくなります。
そこで、改善指摘に入る前に、次のような一言を置きます。
今日は責めたいわけではなく、次回から進めやすくするために一緒に整理したいです。
今後の仕事をより進めやすくするために、ひとつ確認したいことがあります。
成果を出しやすくするために、今回の進め方について一緒に振り返りたいです。
このように目的を共有すると、1on1の場が「叱責」ではなく「改善のための対話」になりやすくなります。
ただし、目的共有は言い訳のように長くする必要はありません。
前置きが長すぎると、かえって相手は「何を言われるのだろう」と不安になります。
大切なのは、短く、率直に、相手の成長や仕事の改善につながる話であることを伝えることです。
たとえば、次のような流れです。
今回は、次回からチーム全体で動きやすくするために、報告タイミングについて確認したいです。
昨日のA案件の進捗確認で、遅延の共有が当日になりました。
そのため、レビュー担当の作業予定を急きょ変更する必要が出ました。
このように目的を先に置いてからSBIで伝えると、相手は話の意図を理解しやすくなります。
改善指摘は、ただ正しいことを言えばよいわけではありません。
相手が受け取れる状態をつくることも、上司やPMの重要な役割です。
相手の事情を確認する余白を残す
SBIモデルで事実と影響を整理しても、上司から見えている情報がすべてとは限りません。
部下の行動には、本人なりの背景がある場合があります。
もちろん、背景があるからといって、すべてを許容する必要はありません。
しかし、背景を確認しないまま指摘だけをすると、原因を取り違えることがあります。
たとえば、報告が遅かった場合でも、理由はさまざまです。
- 報告すべき基準がわかっていなかった
- 悪い報告をすることに抵抗があった
- 先に自分で解決してから共有すべきだと思っていた
- 他案件の対応で優先順位を誤った
- 上司が忙しそうで相談しにくかった
このような背景を確認せずに、「とにかく早く報告して」とだけ伝えると、同じ問題が繰り返される可能性があります。
そこで、SBIで伝えたあとに、相手の事情を確認する問いを入れます。
この件について、本人としてはどう見ていますか?
何か共有しづらかった理由はありましたか?
どの時点で相談すべきか、迷いはありましたか?
次回から変えるとしたら、何が現実的だと思いますか?
この問いがあるだけで、1on1の空気は変わります。
上司が一方的に結論を押しつけるのではなく、相手の認識を確認する姿勢が伝わるからです。
ただし、注意したいのは、相手の事情を聞くことと、基準を曖昧にすることは違うという点です。
たとえば、報告の遅れについて背景を聞いたうえで、次のように伝えることができます。
背景は理解しました。
そのうえで、遅れが見えた段階で早めに共有することは、チーム運営上必要です。
次回からは、予定より半日以上遅れそうな時点で一度共有する形にしましょう。
このように、相手の事情を受け止めつつ、必要な基準は明確にすることが大切です。
最後は具体的な次の行動に落とし込む
改善指摘は、話して終わりではありません。
最後に「次回から何を変えるか」まで決めて、初めて実務に接続されます。
よくある失敗は、1on1の最後が次のような抽象的な言葉で終わることです。
- 「次から気をつけてください」
- 「もう少し意識してください」
- 「しっかりお願いします」
- 「早めに動いてください」
- 「主体的に進めてください」
これらの言葉は、聞いた瞬間には納得感があるように見えます。
しかし、実際には行動が曖昧です。
「気をつける」とは、何をすることなのか。
「早め」とは、どのタイミングなのか。
「主体的」とは、どの場面で何をすることなのか。
ここが曖昧なままだと、次回も同じ認識ズレが起きます。
改善指摘の最後は、できるだけ具体的な行動に落とし込みます。
たとえば、次のような形です。
次回から、遅れが見えた段階で、確定情報でなくてもチャットで一度共有してください。
次の会議では、担当領域について最低1つ、懸念点か判断材料を共有してください。
次回の資料提出前に、前回レビュー指摘の反映チェックを5分入れてください。
顧客回答に迷った場合は、当日中に判断待ちの状態であることだけ先に共有してください。
このように、行動が具体的になると、相手は実行しやすくなります。
また、合意した内容は、必要に応じて1on1の最後に確認するとよいです。
今日の話をまとめると、次回からは遅れが見えた時点で、確定前でも一度共有する。まずはこの形で進めてみましょう。
この一言があると、上司と部下の認識がそろいます。
関係を壊さない改善指摘に必要なのは、厳しさを消すことではありません。
相手が納得し、行動に移せる粒度まで具体化することです。
SBIモデルを使うと、指摘を感情論ではなく、次の行動につながる対話として扱いやすくなります。

SBIモデルは「厳しい指摘」をやわらげる技術ではない
SBIモデルは、改善指摘をやさしく聞こえさせるためだけのテクニックではありません。
もちろん、感情的な言い方や人格否定を避ける効果はあります。
しかし、本来の目的は「指摘を弱めること」ではなく、「相手が受け止め、行動を変えられる形に整理すること」です。
ここを誤解すると、1on1での改善指摘が曖昧になります。
結果として、相手に配慮したつもりでも、何を改善すればよいのかが伝わらなくなります。
やさしく言うことと、曖昧にすることは違う
関係を壊したくないと思うほど、上司は言葉を選びます。
これは大切な姿勢です。
ただし、配慮しすぎるあまり、改善点がぼやけてしまうことがあります。
たとえば、次のような伝え方です。
最近少し忙しそうですね。
できれば、もう少し周りとも連携できるといいかもしれません。
一見、やわらかい表現です。
しかし、この言い方では何を改善すべきかがはっきりしません。
相手からすると、次のように受け取る可能性があります。
- 忙しそうに見えていることを心配されているのか
- 連携不足を指摘されているのか
- 報告の遅れを問題視されているのか
- 会議での発言不足を指摘されているのか
指摘内容が曖昧だと、相手は具体的に行動を変えられません。
関係を壊さないために必要なのは、指摘を薄めることではありません。
必要なことを、相手が受け取りやすい順番と表現で伝えることです。
たとえば、同じ内容でも次のように伝えると、改善点が明確になります。
昨日のA案件の進捗確認で、遅延しているタスクについて事前の共有がありませんでした。
そのため、レビュー担当の作業予定を当日中に変更する必要が出ました。
次回から、遅れが見えた段階で早めに共有できるようにしたいです。どのタイミングなら共有しやすそうですか?
この言い方は、決して強く責めているわけではありません。
しかし、改善してほしい行動は明確です。
「やさしい言い方」と「曖昧な言い方」は違います。
1on1で必要なのは、相手を傷つけないように配慮しながらも、改善点は具体的に伝えることです。
必要なことを具体的に伝えるから信頼につながる
信頼関係を守るために、言いにくいことを避ける上司もいます。
しかし、問題があるのに何も伝えない状態が続くと、かえって信頼を損なうことがあります。
たとえば、部下の成果物に確認漏れが続いているのに、上司が何も言わなかったとします。
その場では空気は悪くならないかもしれません。
しかし、後になって評価面談や大きなトラブルの場で突然指摘されると、部下はこう感じる可能性があります。
それなら、もっと早く言ってほしかった。
改善指摘は、相手にとって耳が痛い話です。
それでも、早い段階で具体的に伝えれば、本人は修正できます。
逆に、上司が遠慮して先送りすると、相手は改善の機会を失います。
小さなズレが積み重なり、最終的に大きな問題として扱わざるを得なくなることもあります。
信頼される上司は、ただやさしい上司ではありません。
必要なことを、必要なタイミングで、相手が受け取れる形にして伝えられる上司です。
SBIモデルは、そのために役立ちます。
たとえば、成果物の品質について伝える場合も、次のように具体化できます。
昨日提出された月次報告資料で、前回レビューで指摘した数値の修正漏れが3か所ありました。
そのため、再確認と差し戻しが必要になり、上長報告前の準備時間が短くなりました。
次回から、提出前にレビュー指摘の反映チェックを入れたいのですが、どの確認手順なら進めやすそうですか?
この伝え方であれば、相手の能力を否定していません。
しかし、問題の内容と影響は明確です。
具体的に伝えるからこそ、相手は「何を変えればよいか」を理解できます。
そして、上司が本気で成長や成果を支援しようとしていることも伝わりやすくなります。
1on1の質は、言いにくいことをどう扱うかで決まる
1on1は、部下の話を聞く場です。
同時に、必要なフィードバックを伝える場でもあります。
もちろん、毎回ネガティブな指摘をする必要はありません。
しかし、課題があるのに触れない1on1が続くと、面談は単なる近況確認になってしまいます。
1on1の質は、話しやすいことをどれだけ話せるかだけでは決まりません。
言いにくいことを、どれだけ安全に、具体的に、次の行動につながる形で扱えるかでも決まります。
たとえば、次のようなテーマは、上司にとっても扱いづらいものです。
- 報告が遅い
- 会議で発言が少ない
- 期限への意識が弱い
- 成果物の品質にばらつきがある
- 周囲との連携が不足している
- 顧客対応に不安がある
これらを放置すると、本人の成長機会も、チームの成果も損なわれます。
一方で、感情的に伝えると関係が悪化します。
だからこそ、SBIモデルのような型を使い、事実・行動・影響に分けて扱う必要があります。
良い1on1は、相手を責めないだけでは不十分です。
相手が次に何を変えればよいかを理解できる場である必要があります。
そのためには、上司側が次の姿勢を持つことが重要です。
- 言いにくいことほど、具体的な事実に分けて伝える
- 相手の人格ではなく、行動に焦点を当てる
- 影響を伝えたうえで、背景や認識を確認する
- 最後は次の行動に落とし込む
- 改善を一方的に求めるのではなく、合意形成する
SBIモデルは、厳しい話をやわらかく見せるための飾りではありません。
必要な指摘を、相手が受け取り、行動に変えられるようにするための実務的なフレームワークです。
関係を壊さない改善指摘とは、言葉を濁すことではありません。
相手の成長とチームの成果に必要なことを、具体的に、誠実に、対話として伝えることです。
まとめ|SBIモデルで改善指摘を「対話」に変える
1on1で改善指摘を伝えるときに重要なのは、相手を責めることではありません。
具体的な事実をもとに、次の行動を一緒に変えていくことです。
SBIモデルを使えば、ネガティブな内容でも「感情的な注意」ではなく、「行動改善につながる対話」として扱いやすくなります。
この記事のポイントを整理すると、次のとおりです。
改善指摘は、言い方をやわらげればよいわけではありません。
大切なのは、必要なことを曖昧にせず、相手が受け止めやすい形で具体的に伝えることです。
次の1on1では、まず1つの指摘だけでも構いません。
「どの状況で」「どんな行動があり」「どんな影響が出たのか」に分けて整理してから伝えてみてください。
それだけでも、改善指摘は一方的な注意ではなく、次の行動を一緒に考える対話に変わります。



